2026/04/02 13:03
“癒し”や“スピリチュアル”という言葉を聞くと、どこか特別なことのように感じてしまうけれど、本当はもっと日常に近いところにある感覚なのかもしれない。 忙しさの中で、知らないうちに少しずつズレていく自分。そのズレを無理に正そうとするのではなく、「今の自分はどんな状態なんだろう」と一度立ち止まって確かめてみること。 今回登場するのは、花屋〈STAYFLOWER〉を営む、中井侃矢(なかい・かんや)さん。 “セルフラブ”という言葉に少し距離を置きながらも、自分の状態や感覚を丁寧に見つめ、その時々の「ちょうどいい」場所に戻ることを大切にしてきた人だ。 「セルフラブって、ちょっと構えちゃうじゃないですか」 —特別な思想より、ニュートラルに戻る感覚。 「セルフラブって聞くと、なんか“ちゃんとしなきゃ”って構えちゃうんですよね」 けれど中井さんは、それを“自分を高めるためのもの”とはあまり捉えていない。「整えるっていうより、ニュートラルに戻す感覚のほうが近いですね」。何かを足すよりも、一度フラットな場所に戻ること。そのために、花があり、石があり、“場”がある。 無機質な世界の反対側に、花があった 大学卒業後、食品商社で会社員として働いていた中井さん。当時を振り返り、「すごく無機質に感じていた」と話す。「無機質の反対ってなんだろう、って考えたときに、有機的なものが浮かんだんです」。花が特別好きだったわけではない。ただ、誰かから花をもらった記憶や、“数値化できないものを扱う仕事”への直感が、花屋という選択へとつながっていった。 やろうと決めてから、実際に花屋で働き始めるまで、約1年。「サラリーマン自体も1年くらいだったので、あまり天秤にかけるものもなかったですね」。迷いの少なさは、無謀さというよりも、感覚への信頼から生まれていた。 「これ、いいな」を疑い続けるということ STAYFLOWERで何かを選ぶとき、中井さんが最終的に頼りにしているのは自分の感覚だ。ただし、それは“信じ切る”ということではない。「“いいな”と思っても、頭のどこかで“本当に?”って疑ってます」。一度立ち止まり、少し距離を取る。その矛盾を、彼はどこか楽しんでいる。 「昔は良いと思ってたものが、今の解像度だとそうでもない、ってこともありますよね」。だから、あまり固執しない。“今の自分にとって一番いい”を選び、必要があれば手放す。その軽やかさが、彼の決断を自然と早くしている。 大きな箱が、感覚を育てる 中目黒の店舗について、中井さんは「最初は正直、ミスったと思った」と笑う。「花屋にしては、箱が大きすぎて。何をしても、こじんまり見えちゃう感じがして」。けれど、2年経った今、その印象は変わった。 「人って、箱の大きさにだんだんフィットしていくんですよね。大きい箱がないと、大きいものは作れない」。余白があるから、次が生まれる。少し背伸びだったとしても、その余白に賭けた時間は、今振り返ると必要なものだった。 忙しさのバロメーターは「いけばな」 週に一度、水曜日。本来はオフの日だが、忙しくなると削られがちな時間がある。それが、いけばなだ。「行けなくなると、あ、今ちょっとズレてきてるな、って分かるんです」。70代の先生のもとで花をいける時間は、少し手を加えられるだけで場の空気が変わる。 「欲張るとダメなんですよね。ほんと、人生みたいで」。いけばなは、“整える”というより、“戻る”ための行為。静かなメディテーションのような時間だ。 理由のない「好き」を、失わないために 「花が綺麗って、理由ないと思うんですよ」。その“理由のなさ”こそ、今の時代に少しずつ失われている感覚かもしれない。条件で選び、正解を探すことに慣れた私たち。でも本当は、「なんでかわからないけど惹かれる」という瞬間に、大切なものが宿っている。花も、クリスタルも、その入り口にすぎない。 中井侃矢 1994年和歌山生まれ。大学卒業後、サラリーマンを少しばかり経験した後、花屋に。2019年STAYFLOWERをスタートさせる。2021年代田橋に1号店を、2023年中目黒に2店舗目をオープン。 credit featuring:中井侃矢 photo:三浦えり
クリスタルは、何かを変えたり高めたりするためのものというより、自分の位置をそっと確認するための、ひとつの目印のような存在だ。
そう前置きして、中井さんは少し笑った。海外、とくにLAを中心に広がったセルフラブという言葉は、コロナ禍をきっかけに瞑想やヨガ、クリスタルといった行為とともに、ライフスタイルとして広がっていった。


interview / text: Rina Park

